高次脳機能障害のリハビリテーション

高次脳機能障害について

高次脳機能障害の主要症状

 高次脳機能障害は,病気や外傷などの脳損傷により,失語,失行,失認,記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害などの症状が生じ,日常生活または社会生活に制約が生じる状態です.

① 記憶障害
② 注意障害
③ 遂行機能障害
④ 病識欠如
⑤ 社会的行動障害


①記憶障害

  • 物の置き場所を忘れたり,新しい出来事を覚えていられなくなること.
  • そのために何度も同じことを繰り返し質問したりする.

 

②注意障害

  • ぼんやりしていて,何かをするとミスばかりする.
  • 2つのことを同時にしようとすると混乱する.


③遂行機能障害

  • 自分で計画を立ててものごとを実行することができない.
  • 人に指示してもらわないと何もできない.
  • いきあたりばったりの行動をする.

 

④病識欠如

  • 自分が障害をもっていることに対する認識がうまくできない.
  • 障害がないかのように振る舞ったり,言ったりする.

 

⑤社会的行動障害

  • すぐ他人を頼る,子どもっぽくなる(依存,退行).
  • 無制限に食べたり,お金を使ったりする(欲求コントロール低下).
  • すぐ怒ったり笑ったりする,感情を爆発させる(感情コントロール低下).
  • 相手の立場や気持ちを思いやることができず,よい人間関係が作れない(対人技能拙劣).
  • 1つのことにこだわって他のことができない(固執性).
  • 意欲の低下,抑うつ,など.

 

[中島八十一・寺島彰(編): 高次脳機能障害ハンドブック―診断・評価から自立支援まで. 医学書院, 2006. より]

 

 

高次脳機龍障害のリハビリテーション

リハビリテーション・チーム リハビリテーション・チーム

 高次脳機龍障害のリハビリテーションは,患者さんを中心に,ご家族の方とともに,医師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床心理士,看護師,栄養士,医療ソーシャルワーカーなどの多職種から構成されるチームによって行われます.高次脳機龍障害の多彩な症状を分析し,社会復帰を目指した支援を行うには,臨床心理士の役割が重要です.
 当院では,2名の常勤臨床心理士がおり,より詳細な分析結果が他職種に情報共有されて,訓練や生活設定,教育指導に活かされます.

 訓練は理学療法や作業療法,言語聴覚療法による機能改善と,心理的な支援を実施します.患者さん・ご家族に対しては,高次脳機能障害の内容について教育的な説明・指導,試験外出・外泊といった実際の家庭・社会生活を再び体験させて社会適応を促す取り組みなどが行われます.
 また,職業適性を知るための「厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)」や,一般事務作業および実際の職業内容に類似した課題を設定して作業遂行能力の確認を行う職業前評価,訓練を行います(ワークトライアル).
 神経心理学的評価の分析結果から,問題点を整理して患者さん,ご家族に伝え,自分の障害に気づいて認め・意識するといった自己認識を高めること,高次脳機能障害を代償するための手段の獲得に向けた訓練を行います.
 

当院で実施している主な神経心理学的検査

 臨床心理士,作業療法士,言語聴覚士などにより,以下のような神経心理学的検査が実施され,その結果について詳しく説明を行います.

《主な神経心理学的検査》

種 類

検  査

知的機能

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

ミニ-メンタル-ステート(MMS)

ウェクスラー成人知能検査(WAIS-III)

人格・性格

矢田部ギルフォード性格検査(YG)

顕在性不安尺度(MAS)

自己評価式抑うつ性尺度(SDS)

ミネソタ多面的人格目録(MMPI)

覚醒

聴覚単純反応時間測定(RT)

記憶

ウェクスラー記憶検査(WMS-R)

ベントン視覚記銘検査(BVRT)

三宅式記銘力検査

リバーミード行動記憶検査(RBMT)

遂行機能

遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)

ウイスコンシン・カード分類検査(WCST)

自己認識

患者能力評価尺度(PCRS)

言語機能(失語症)

標準失語症検査(SLTA),など